水上の仲間にも潜水艦の仲間にもきょうだいにすらも名前をあまり名乗ってはならない、うっかり自己紹介する癖がついちゃうからね。名前を知られないことを誇らねばならない。艦長の私室をうらやましく思わないこと。沈むのと聞かれたときは潜るのと訂正すること。悠々とベッドに寝ることになれるような潜水艦になってはならない。魚雷と一緒に寝ることに早めになれること。畳の上で死ぬことに憧れてはならない。陸に上がった河童になってはならない。泣いてはならない、海の中では無意味なのだから。行先もその期限も言えない、帰るべき場所、家族のいる人間たちに憧れてはならない。いつまでいなくなってしまうの、そう誰にも聞かれないことに感傷をおぼえてはならない。いつまでいなくならなければならないの、そう誰にも言えないことに悲しみを抱いてはならない。人間に恋してはならない。それは破滅への道である。そして愛したとしても自分の救いのために彼らに刃を向けてはならない。破滅の道を行けばさいごお前の心臓は破れ、海の上に泡となって浮かぶであろう。